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大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)183号 判決 1982年12月14日

控訴人 木津信用組合

右代表者代表理事 花﨑一郎

右訴訟代理人弁護士 岩崎英世

右訴訟復代理人弁護士 菊池逸雄

被控訴人 中本建夫

被控訴人 中川重男

右両名訴訟代理人弁護士 松尾直嗣

右訴訟復代理人弁護士 松岡康毅

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  大阪地方裁判所が昭和五二年(手ワ)第二〇五二号約束手形金請求事件につき同年一〇月六日言い渡した手形判決を次のとおり変更する。

(一)  被控訴人中本は、控訴人に対し、金一五七三万六一二九円及び内金一五四四万三五五七円に対する昭和五三年七月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  同裁判所が昭和五二年(手ワ)第二一〇二号約束手形金請求事件につき同年一〇月一三日言い渡した手形判決を次のとおり変更する。

(一)  被控訴人らは、控訴人に対し、各自金三六〇万五五二八円及び内金三五三万八四九三円に対する昭和五三年七月三日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

(二)  控訴人の被控訴人らに対するその余の請求を棄却する。

二  訴訟費用中、控訴人と被控訴人中本との間においては、第一、二審を通じて控訴人に生じた費用の一〇分の九と同被控訴人に生じた費用との合算額を五分し、その一を控訴人の、その余を同被控訴人の各負担とし、控訴人と被控訴人中川との間においては、第一、二審を通じて控訴人に生じた費用の一〇分の一と同被控訴人に生じた費用との合算額を五分し、その一を控訴人の、その余を同被控訴人の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  大阪地方裁判所が昭和五二年(手ワ)第二〇五二号約束手形金請求事件につき同年一〇月六日言い渡した手形判決及び同裁判所が昭和五二年(手ワ)第二一〇二号約束手形金請求事件につき同年一〇月一三日言い渡した手形判決をいずれも認可する。

3  訴訟費用は第一(ただし、異議申立後のもの。)、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決。

二  被控訴人ら

本件控訴を棄却するとの判決。

第二当事者の主張

一  控訴人の請求原因

1  控訴人は、別紙手形目録記載(一)、(二)の約束手形二通(以下、それぞれ「本件(一)手形」、「本件(二)手形」という。)を所持している。

2  被控訴人中本は、本件(一)手形を振り出し、本件(二)手形につき振出人のため手形保証した。

3  被控訴人中川は、本件(二)手形を振り出した。

4  控訴人は、本件各手形を、各満期に各支払場所に支払のため呈示したが、いずれもその支払がなかった。

5  控訴人は、昭和五二年五月一四日、被控訴人中本から本件(二)手形金元本の内金として五〇万円の支払を受けた。

6  よって、控訴人は、被控訴人中本に対しては、本件(一)手形金元本一九六四万円とこれに対する満期の昭和五二年五月三一日から支払済みまで手形法所定年六分の割合による利息、及び本件(二)手形金残元本四五〇万円とこれに対する満期の前同日から支払済みまで前同様の利息の各支払、被控訴人中川に対しては、本件(二)手形金残元本四五〇万円とこれに対する満期の前同日から支払済みまで前同様の利息の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する被控訴人らの認否請求原因事実はすべて認める。

《以下事実省略》

理由

一  請求原因事実はすべて当事者間に争いがない。

二  そこで、まず、被控訴人ら主張の手形書替による本件(二)手形金債務の消滅の成否について判断する。

前記当事者間に争いのない事実と、《証拠省略》を総合すれば、被控訴人中本は、交換所の取引停止処分を受けた昭和五二年五月二日、控訴人の求めにより、それまでに控訴人支店からの借入金等を原因として控訴人あて振り出していた数通の約束手形を本件(一)手形に書き替え、これを控訴人に交付したこと、同被控訴人は、これより先、控訴人支店の融資枠に余裕がなくなっていたため、被控訴人中川に依頼して控訴人あての手形を振り出してもらい、これにみずからも裏書して控訴人に交付していたが、本件(二)手形は、被控訴人中川において、同月一〇日ころ、右手形の延期手形として控訴人あて振り出したものであることが認められる。

被控訴人らは、本件(一)手形の書替の対象となった旧手形中には本件(二)手形も含まれており、右手形書替によって本件(二)手形金債務は消滅した旨主張し、《証拠省略》中には、右主張に沿う供述部分があるけれども、右に認定したとおり、本件(二)手形は、現実には本件(一)手形よりも後に振り出されたものであるし、《証拠省略》とも比照すると、右供述部分はたやすく信用し難く、他にこの主張事実を認めるに足りるほどの証拠はないから、右主張は採用することができない。

三  次に、被控訴人らの相殺の抗弁について判断する。

1  まず、控訴人の債務不履行に基づく損害賠償責任の成否について検討する。

(一)  雲出が昭和五二年二月当時控訴人針中野支店長の職にあったことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、《証拠省略》を総合し、これに弁論の全趣旨を参酌すれば、

(1) 被控訴人中本は、昭和四八年一月からトミヤ商会の商号で贈答品やスポーツ用品等の販売業を営み、昭和四九年夏ころから控訴人支店と取引を始め、昭和五一年七月ポニーランドの商号で遊技場の、同年一〇月にはトミヤスポーツの商号でスポーツ用品販売の各営業もするようになったこと、

(2) 雲出は、昭和五一年七月控訴人支店長に就任し、同被控訴人に対し取引上の便宜を計る一方で、同支店の預金残高を実数以上にかさ上げしてその預金成績をあげるため、同被控訴人が八光信金とも当座取引のあることを利用し、同被控訴人に対し、同人振出の八光信金払の小切手を預金に受け入れさせて欲しい、この小切手の仕末は自己が責任をもって行う旨説明して協力依頼し、同被控訴人から右小切手を受け入れるとともに、八光信金に対しては控訴人支店振出の自己宛小切手を交付し、これによって前記受入小切手を決済することとし、この操作を繰り返していたが、同年暮から昭和五二年一月にはその金額は一三〇〇万円ほどに達していたこと、

(3) ところが、八光信金では、右のような控訴人支店の小切手による決済では換金までの金利損が生じ、粉飾の疑いも招きかねないことを理由に難色を示すに至ったため、雲出は、同被控訴人に対し、前記受入小切手の支払資金を貸付金として交付し、同被控訴人ないし控訴人支店職員においてこれを八光信金の同被控訴人当座預金に入金して右小切手を決済したり、あるいはその交換呈示後に雲出が同小切手を依頼返却したりしていたこと、

(4) 同被控訴人は、昭和五二年二月末ころ、雲出から、前同様の目的のため八光信金払の白地小切手を預金に受け入れさせて欲しい、金額は二七〇―二八〇万円とし、手形交換においては、雲出が前記(3)同様の措置をして責任をもって不渡処分を避止するから安心されたい旨懇請されたので、八光信金の当時の当座預金残高は右金額をはるかに下回っていたが、よもや不渡処分になることはないものと信じ、雲出に対する協力はこれ限りにしてほしい旨断って、右小切手を振り出し、雲出はその金額を二七〇万円と補充して本件小切手を受け入れたこと、

(5) 雲出は、同年三月七日本件小切手を手形交換に付したのち、翌八日いったんこれを依頼返却したが、当時本部の監査があって従前のような内部処理ができず、同被控訴人の了承を得ないまま、同月一一日本件小切手を再度交換に回し、その支払資金の手当(同月一〇日現在における同被控訴人の八光信金の当座預金残高は二八万二九一七円)や依頼返却の措置をしなかったこと、

(6) そして、同月一一日手形交換に付された同被控訴人振出にかかる八光信金払の小切手四通のうち、金額合計一二万五七〇〇円の二通については引落し決済されたが、同被控訴人とすれば雲出との前記合意に従って処理済みと考えていた本件小切手のほか、泉州銀行白鷺支店持出の金額一八万円の小切手が不渡りとなって交換所に不渡届が提出されたところ(本件小切手が同日不渡りになったことは当事者間に争いがない。)、同被控訴人は、八光信金からその旨連絡を受けて急きょ控訴人支店に赴き、控訴人の幹部と善後策を話し合ったが、具体的結論が出ないまま、同月一五日配布の交換所不渡報告に同被控訴人の氏名等が掲載され、参加銀行へ通知されたこと、

(7) このため、同被控訴人は、にわかに資金繰りが困難となり、手形取引に支障を生じたばかりか、一般債権者もこの事実を知るところとなり、信用が一挙に地に落ちた結果、同月末にはポニーランドがその営業用遊技機をリース業者等によって引き上げられて営業を廃止したほか、トミヤ商会については、同年四月上旬までに債権者が在庫商品の大半を引き上げ、仕入・販売量が激減し、トミヤスポーツも同様の影響を受け、同月二七日には控訴人以外の金融機関持出にかかる八光信金払の手形小切手四通(金額合計一一七万三〇〇〇円)が不渡りとなって、同年五月二日交換所の取引停止処分を受け(同被控訴人が右のとおり二回目の不渡りを出し、取引停止処分を受けたことは当事者間に争いがない。)、その後曲りなりにも両店の営業を続けたが、同年六月末にはトミヤ商会、同年九月中にはトミヤスポーツが相次いで営業を廃止したこと(同被控訴人が営業廃止をしたことは当事者間に争いがない。)、

が認められ、《証拠判断省略》他にこの認定を動かすに足りる証拠はない。

(二)  そこで、右認定の事実に基づいて、まず、控訴人と被控訴人中本との間の契約関係の存否について検討する。

《証拠省略》を総合すれば、控訴人の針中野支店は、一定の範囲内において本部(主たる事務所)から独立して信用組合の事業に属する取引を決定・施行しうる組織の実体を有していたものと認められるところ、中小企業等協同組合法に基づいて設立された信用組合の参事については、同法四四条二項により商法四二条、三八条が準用されているので、雲出が、昭和五二年二月当時、控訴人の参事ではなかったとしても、右のとおり控訴人の従たる事務所の実体を有する控訴人支店の支店長という名称の使用を許されていた以上は、右各法条により控訴人の参事と同一の権限を有するものとみなされ、この代理権そのものの欠如について被控訴人中本が悪意であったことについてはその的確な主張・立証がないから、雲出は、控訴人支店の営業に関する裁判外の一切の行為をする権限を有していたものといわなければならない。

そして、右の営業に関する行為とは、営業の目的たる行為のほか、営業のため必要な行為を含むものであり、かつ、営業に関する行為にあたるかどうかは、当該行為につき、その行為の性質・種類等を勘案し、客観的・抽象的に観察して決すべきものと解するのを相当とするところ、信用組合が、その組合員(《証拠省略》によれば、被控訴人中本は、前記のとおり控訴人支店と取引のあった当時、その組合員であったことがうかがわれる。)から同人振出の、いわゆる他行小切手を預金に受け入れることは、中小企業等協同組合法九条の八に定める信用組合の業務に属することは明らかである。

もっとも、雲出は、控訴人支店の預金残高を実数以上にかさ上げする目的で、被控訴人中本との間で、同人からの受入小切手については、雲出においてその支払資金を同被控訴人に対する貸付金として交付するか、あるいは交換呈示後に同小切手を依頼返却するかして責任をもって不渡処分を避止する旨約し、本件小切手を預金に受け入れたものであることは前記認定のとおりであり、このような合意に従った処理の仕方そのものについてみると、《証拠省略》からもうかがわれるように、控訴人の支店長として職務上遵守すべき内部規程には違反するもののごとくではあるが、控訴人の営業に関する行為と目すべきであるか否かは、前記のとおり当該行為を客観的・抽象的に観察して決すべきものであるのみならず、いったん不渡報告に掲載された者については、その後六か月以内に二回目の不渡届が提出されると、原則的に交換所の取引停止処分がなされ、参加銀行との当座取引を二年間することができないことは当裁判所に顕著であり、これによれば、その営業に致命的な支障を生ずるものであることも容易にうかがい知ることができるところであって、手形小切手取引に関与する者に対しては、その支払義務者の不渡処分が理由なく生じないよう適切な措置をとるべきことが信義則上要請されていることも合せ考えると、前記のような内部関係における適否の点は、前記認定の合意のもとに本件小切手を受け入れることが控訴人の営業に関する行為として雲出の権限の範囲内のものであるとすることを妨げるものではないというべきである。

そうすると、控訴人と被控訴人中本との間には、本件小切手の受入れに関し、その手形交換に際しては雲出において右合意に従った事務処理をして不渡処分を避止すべきことを内容とする準委任契約が成立したものといわなければならない。

なお、控訴人は、雲出と同被控訴人との間に二七〇万円の金銭消費貸借予約が成立したことを前提として、民法四一九条適用の主張をするけれども、右前提の失当であることは上来説示に徴して明らかであるから、右主張は採用の限りではない。

(三)  そして、雲出が、本件小切手の手形交換に際し、前記契約上の義務の履行を尽くさず、同小切手が不渡りとなったこと、被控訴人中本はその後二回目の不渡りを出して取引停止処分及び営業廃止を余儀なくされたことは前記認定のとおりであるから、進んで、この間の相当因果関係の存否についてみることとする。

《証拠省略》によれば、本件小切手が交換呈示された当時の同被控訴人の八光信金における当座預金残高からする限り、たとえ右小切手が交換に付されなくとも、同時に交換に回された金額一八万円の小切手を引落し決済するにはなお二万円余不足していたことは明らかであるが、《証拠省略》によると、同被控訴人は右交換呈示後も八光信金と当座取引を続け、右呈示の翌日にはその当座預金に四八万円入金している事実があるほか、右預金残高を超えて最高三一万円余の引落し決済がなされている事実のあることが認められ(これからすると、右当座取引には、限度額は明らかではないが当座貸越契約が附随し、いわゆる過振り処理もなされていたものとも推測される。)、これに《証拠省略》を参酌すれば、仮に本件小切手の交換呈示がなかったとした場合においては、前記金額一八万円の小切手が決済されたがい然性は高いものと認めるのが相当である。これに反し、金額二七〇万円の本件小切手については、その交換呈示後、支払銀行の不渡届提出時限(原則として交換日の翌営業日の午前九時三〇分)までにその支払資金を調達することは著しく困難であったものと認められ、前記(一)に認定の事実関係に比照すると、結局、本件小切手の不渡りの事実と同被控訴人の取引停止処分及び営業廃止の事実との間には相当因果関係があるものといわなければならない。

控訴人は、右相当因果関係は存在しない旨主張し、《証拠省略》によれば、控訴人支店では、本件小切手の不渡りから一か月後の昭和五二年四月一一日ころ、銀行錯誤を理由として交換所に対する不渡報告取消請求手続を取るべく、その添付証明資料として二七〇万円の領収書の作成方を被控訴人中本に求めたが、同人がこれを断わり、結局、右手続はなされなかったことが認められる。しかし、持出銀行による錯誤(依頼返却手続の失念等)を理由とする不渡報告取消請求にあっては、通常、これに対する支払銀行の同意又は了承を明らかにする資料等の添付も必要とされていることは当裁判所に顕著であるところ、この点は証拠上明らかでないし、《証拠省略》によれば、同被控訴人との信頼関係が地を払うに至っていた状況下において、控訴人側が、同被控訴人に対し、果たして右手続の趣旨、領収書の作成目的等を委曲を尽して説明し、その了解を得ていたかは疑わしく、前記(一)に認定の事実関係とも合せ考えると、前記認定のような事実があるからといって、その一事から前記判断を妨げるものとはいい難いし、また控訴人主張のごとく、同被控訴人が一回目の不渡りの当時、既に相当の負債があって営業が危たいにひんしていたことを認めるに足りる確証もなく、他に右判断を左右して控訴人の主張事実をうかがわせるに足りるほどの証拠はない。

(四)  ところで、控訴人は、控訴人支店長雲出において被控訴人中本との前記合意に従って処理することは控訴人に対する横領、背任行為にほかならず、同被控訴人も、これが控訴人支店長の職務権限外の行為であることを知っていたから、控訴人は債務不履行責任を負わない旨主張するので考えてみるに、およそ代理人が自己又は第三者の利益を図るため、その有する権限を濫用して代理行為をしたときは、相手方が代理人の意図を知り又は知りうべきであった場合に限り、本人はその責に任じないものと解するのを相当とするところ、これを本件についてみると、雲出が同被控訴人から本件小切手を受け入れたゆえんのものは、前記(一)の認定にみられるように、控訴人支店の支店長として預金成績をあげることを主眼としたものであり、そのこと自体、控訴人の利益にも資することではあるが、ただ、その手段としてとられた前記のような方法については、前記(二)においても触れたごとく、金融機関の本来の業務執行のあり方からすると好ましいものではないとのそしりは免れないし、更には、雲出において何らかの形で自己の利益を図る意図を併せ有していたことも推測に難くはない。しかしながら、《証拠省略》によっても、いまだ雲出が自己又は第三者の利益を図ることを主たる目的とし、専ら背任的意図をもって右行為に出たことまでを確認するに由なく、他にこれを肯認するに足りる的確な証拠もないから、同被控訴人の知情の点をあえて審究するまでもなく、控訴人の前記主張は採用することができない。

(五)  次に、控訴人の示談成立の主張についてみてみるに、その支払者が控訴人か雲出かはともかく、被控訴人中本が四〇〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないところ、控訴人は、本件小切手の不渡りによって同被控訴人に生じた損害についての控訴人の賠償責任をも一切解決する趣旨の合意をしたうえで雲出において右金員を支払った旨主張し、《証拠省略》中には右主張に沿う記載及び供述部分があるけれども、これは《証拠省略》に比照して到底信用し難く、かえって《証拠省略》を総合すれば、同被控訴人は、取引停止処分を受ける直前の昭和五二年四月三〇日、本件小切手の不渡りにより同被控訴人が被った損害に対する賠償内金として控訴人の西尾監査役から前記四〇〇万円の支払を受けたものであることが認められるので、控訴人の前記主張は失当たるを免れない。

(六)  以上に検討したところによれば、控訴人は、被控訴人中本に対し、前記認定の債務不履行による損害賠償責任を負担するに至ったものといわなければならない。

2  よって、控訴人の賠償額について判断する。

(一)  被控訴人中本が、昭和四八年一月からトミヤ商会(贈答品及びスポーツ用品等販売)、昭和五一年七月からポニーランド(遊技場)、同年一〇月からトミヤスポーツ(スポーツ用品販売)の各営業をしていたことは前記のとおりであるところ、《証拠省略》によれば、同被控訴人の昭和五一年の営業純益は、少なくとも四五七万八〇〇〇円は下らなかったものと認められる。

もっとも、《証拠省略》によれば、同被控訴人に対する住民税については、その課税所得が、昭和五〇年度分は一〇八万円、昭和五一年度分は一四〇万円として各賦課されたことが認められるが、その趣旨・目的とするところを異にするのみならず、右課税は前年分所得に対してなされるものであるし、《証拠省略》によれば、同被控訴人は、昭和五一年分所得にかかる課税については日野上税理士に依頼して青色申告することとし、同税理士において実額を圧縮した前記認定金額に基づき申告をしたことが認められるので、右認定の昭和五〇、同五一両年度の各住民税の各課税所得額はなんら前記認定の妨げとなるものではないし、また同被控訴人営業の前記三店の営業収支につき、右認定の数値を上回る記載のある《証拠省略》については、それが同被控訴人自身、帳簿等に基づいて独自に計算したものであることが《証拠省略》により明らかであって、これも前記認定を左右するほどのものではなく、他にこの認定を動かすに足りる証拠はない。

(二)  ところで、被控訴人中本は、控訴人の債務不履行がなければ、同被控訴人の昭和五一年中の収支を基準として、収入は毎年対前年比三〇パーセントあて、支出は同二〇パーセントあてそれぞれ増加し、これに応じて営業純益も逐年増加したはずである旨主張し、《証拠省略》中には、これに沿う記載部分もみられるが、前記認定のような同被控訴人の業種、営業実績等に照らすと、たやすくこれを採用し難いものというほかなく、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、前記1の(一)認定の事実関係のもとにおいては、控訴人の債務不履行がなければ、同被控訴人は、少なくとも取引停止処分を受けた昭和五二年五月二日ころから二年間は、昭和五一年中の前記営業純益を下らない利益を得られたものというべく、この間の得べかりし利益の合計は九一五万六〇〇〇円を下らないものと認めるのが相当である。

なお、被控訴人中本は、前記のとおり、右取引停止処分後も約二ないし五か月間、トミヤ商会とトミヤスポーツの営業を曲りなりにも継続していたものであり、《証拠省略》によれば、その間に若干の営業利益をあげていたことがうかがわれるが、その額については確証といえるほどのものはなく、営業純益の認定は前記のように控え目なものとなっているのであるから、これが直ちに右認定の妨げとなるものとは認め難い。

(三)  しかしながら、(1) 既に認定の事実関係によれば、本件小切手の不渡りは、被控訴人中本の取引停止処分及び営業廃止に対する唯一の決定的な原因というわけのものではなく、控訴人と直接関係のない前記1の(一)認定の諸事情も競合して右結果を招いたものと認められること、(2) 同じく既に認定の事実関係によれば、同被控訴人は、雲出支店長の協力依頼に応じた結果とはいえ、右不渡り発生後、自己の損害の発生・拡大の防止については、当然みずからも努力を払うべきであったものというべきところ、この点に欠けていたことは免れ難いことがうかがい知られること、(3) 《証拠省略》によれば、同被控訴人は、前記逸失利益の算定期間中、前記のごとき若干の営業利益のほか、他からアルバイト収入(ただし、その稼働期間及び額を確認する資料はない。)も得ていたことが認められること等を合せ考えれば、前記認定の逸失利益額をもってそのまま控訴人の債務不履行によって被控訴人中本が被った損害とみるのは早計にすぎるものというべく、その損害額は右(1)ないし(3)の諸事情及び本件に現れたその他諸般の事情もしんしゃくしたうえ、前記逸失利益の七割にあたる六四〇万九二〇〇円をもって損害と認めるのが相当であり、同被控訴人が控訴人から賠償内金として四〇〇万円の支払を受けたことは前記のとおりであるから、これを控除した二四〇万九二〇〇円が本件賠償額となる。

3  次に、被控訴人中本が控訴人に対し別紙定期預金一覧表記載のとおり元本合計三六四万一一六七円の定期預金債権を有していることは当事者間に争いがない。なお、右各定期預金についての預入期間中及び期日経過後の約定利率については、その主張・立証がない。

4  そして、被控訴人中本が、昭和五四年一一月一日の本件原審口頭弁論期日において、控訴人に対し、前記の損害賠償債権と定期預金債権を自働債権として、控訴人の同被控訴人に対する本訴請求債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

よって、相殺及び相殺充当について考えるに、自働債権又は受働債権として複数の元本債権を含む数個の債権があり、当事者のいずれもが右元本債権につき相殺の順序の指定をしなかった場合には、まず元本債権相互間で相殺に供しうる状態となった時期の順序に従って相殺の順序を定めたうえ、その時期を同じくする元本債権相互間及び元本債権とこれについての利息債権との間で民法四八九条、四九一条の準用により相殺充当を行うのが相当であると解すべきところ(最高裁判所昭和五六年七月二日判決・民集三五巻五号八八一頁)、いまこれを本件についてみるに、自働債権については、被控訴人中本において前記損害賠償債権を一次的に、別紙定期預金一覧表記載の定期預金(以下、同表の番号に従い、「定期預金(一)」のごとく略称する。)債権を二次的に相殺に供する旨、相殺順序の指定をしていることはその主張自体によって明らかであるが、右定期預金相互間の相殺の順序について当事者により指定がなされたことを認めるに足りる証拠はなく、一方、受働債権については、本件(一)手形金元本一九六四万円及びこれに対する昭和五二年五月三一日から支払済みまで年六分の割合による利息(以下「受働債権(一)」という。)と本件(二)手形金残元本四五〇万円及びこれに対する前同様の利息(以下「受働債権(二)」という。)の相互間の相殺の順序については当事者より指定がなされたことの証拠はないところ、右各受働債権についてはその態様からみて自働債権者のための相殺の利益は同一であると認められる。

そこで、まず、昭和五二年三月一一日に期限の定めのない債務として発生したものと認められ、したがって相殺適状にある損害賠償債権二四〇万九二〇〇円を各受働債権の元本額に応じてこれに按分充当すると、別紙計算書(二)①のとおり受働債権(一)の残元本は一七六七万九九〇五円、受働債権(二)の残元本は四〇五万〇八九五円となる。次いで、定期預金債権中、既に相殺適状となっている定期預金(一)、(二)の元本合計二四〇万円を各受働債権の残元本額に応じてこれに按分充当すると、別紙計算書(二)②のとおり受働債権(一)の残元本は一五七二万七二九五円、受働債権(二)の残元本は三六〇万三五〇五円となる。次に相殺適状となる定期預金(三)の元本五一万〇二三八円と各受働債権残存分との間で相殺を行うと、別紙計算書(二)③のとおり相殺適状を生じた昭和五二年一〇月二二日までに受働債権(一)については三七万四八六九円、受働債権(二)については八万五八九一円の利息が生じているので、右自働債権を各受働債権の残元本と右利息の合計額に応じて按分し、これを各受働債権の利息、元本の順に充当すると、同計算書のとおり受働債権(一)の残存分は残元本一五六八万七〇四一円及びこれに対する同年一〇月二三日から支払済みまで年六分の割合による利息、受働債権(二)の残存分は残元本三五九万四二八一円及びこれに対する前同様の利息となる。次に相殺適状となる定期預金(四)の元本四一万六五四四円と各受働債権残存分との間で相殺を行うと、別紙計算書(二)④のとおり相殺適状を生じた同年一一月二八日までに受働債権(一)については九万五四一一円、受働債権(二)については二万一八六一円の利息が生じているので、右自働債権を前同様の方法で充当すると、同計算書のとおり受働債権(一)の残存分は残元本一五四四万三五五七円及びこれに対する同年一一月二九日から支払済みまで年六分の割合による利息、受働債権(二)の残存分は残元本三五三万八四九三円及びこれに対する前同様の利息となる。そこで次に相殺適状となる定期預金(五)の元本三一万四三八五円と各受働債権残存分との間で相殺を行うと、別紙計算書(二)⑤のとおり相殺適状を生じた昭和五三年七月二日までに受働債権(一)については五四万八三五二円、受働債権(二)については一二万五六四〇円の利息が生じているので、右自働債権を前同様の方法で按分し、これを右利息に充当すると同計算書のとおり受働債権(一)の残存分は残元利合計一五七三万六一二九円及び残元本一五四四万三五五七円に対する同年七月三日から支払済みまで年六分の割合による利息、受働債権(二)の残存分は残元利合計三六〇万五五二八円及び残元本三五三万八四九三円に対する前同様の利息となる。

5  次に、被控訴人中川は、被控訴人中本の前判示相殺の抗弁を援用して自己の本件(二)手形金債務消滅の主張をするので検討するに、約束手形の振出人のため保証をした者が所持人に対して手形金額の支払をしたときは、自己の債務はもとより、保証債務の性質上、被保証人である振出人の所持人に対する手形金債務も消滅するものというべく、このことは、保証人の所持人に対する反対債権をもってする相殺によって手形金債務の一部が消滅する場合であっても理を異にしないものと解されるから、被控訴人中川の本件(二)手形金債務も右相殺による同債務一部消滅の限度において消滅したものといわなければならない。

四  以上説示の次第であってみれば、控訴人の被控訴人らに対する本訴各請求は、本件各手形金債権中、前記三の4、5説示の残存債権の支払を求める限度においては理由があるからこれを正当として認容し、その余を失当として棄却すべきである。

よって、原判決並びに大阪地方裁判所が昭和五二年(手ワ)第二〇五二号約束手形金請求事件につき同年一〇月六日言い渡した手形判決及び同裁判所が昭和五二年(手ワ)第二一〇二号約束手形金請求事件につき同年一〇月一三日言い渡した手形判決を右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島﨑三郎 裁判官 高田政彦 篠原勝美)

<以下省略>

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